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万引き主婦(第2話)

「あの・・・自分でやりますから・・・」

晶子が小さな声で言うと、男は手を引いた。

「あの・・・」

「何ですか?」

「このことは警察には言わないでください。お願いします」

「・・・」

男はそれには答えず、

「まず、出してください」

さきほどと同じことを繰り返した。

「はい・・・」

晶子は力なく手を伸ばし、紙袋に手を入れると、中の品物を取り出しはじめた。

「あの・・・お金は払いますから警察だけは・・・」

高級な香水をテーブルに置きながら、晶子は再度哀願した。

「・・・」

男は黙って紙袋を見つめながら、次の品物を出すようにという表情をした。ほかに香水が数本、口紅、指輪、イヤリングなどが、晶子の手によってテーブルに並べられた。

「お金は今払いますから・・・」

晶子は、財布を出しながら同じ言葉を繰り返すしかなかった。

「高級なものばかりですね」

男は、あいかわらず晶子の言葉は聞こえないという風情だった。

「あの・・・どうか・・・」

「奥さん、お金持ちのようですね」

「いえ・・・そんなことは・・・」

「奥さんが身につけているものはブランドものばかりですね」

「・・・」

「その服、それにバッグも財布も・・・」

「・・・」

「ご主人は何を・・・?」

「え?」

男は万引きのことにはまったく触れようとはしなかった。

「ご主人は何をなさっていらっしゃるんですか?」

「あの・・・弁護士を・・・」

「そうですか・・・お子さんは?」

「来年、高校受験を・・・」

「たいへんでしょう」

「はい・・・」

晶子には、男の真意が分かりかけてきていた。

「あの・・・どうか・・・」

「弁護士に受験ですか・・・なるほど・・・」

「ですから、このことは・・・」

「それは奥さん次第ということですね」

男の目的はもはや明らかだった。

「どういうことでしょう?」

晶子はわからないという感じで聞いた。

「もうわかっているでしょう?」

男はソファから立ち上がりながら、テーブルを回って晶子のソファに寄ってきた。

「あの・・・」

晶子は、男と反対側に腰をずらせながら、声を震わせた。男はかまわず晶子のすぐ左側に腰をおろした。

「あの・・・お金を・・・」

晶子は財布から数枚のお札を取り出したが、男はそれには見向きもせず、背中から晶子の肩に手を回してきた。

「あの・・・これを・・・」

晶子は反対側の手で、男の手を払いのけるようにした。

「奥さん。わかってるでしょう?」

「・・・」

男が再び右手を回し、少し強く晶子の肩をつかんだ。

「私が警察に通報したらどうなるか・・・」

「・・・」

晶子は、今度は払いのけることをせず、男の手に軽く触れただけだった。

「あの・・・何をなさるんです?」

「まだ、そんなことを言ってるんですか」

男は晶子の肩に置いた手を下にずらした。

「あっ!」

ブラウスの上から男の手が右の胸に触れると、晶子は思わずその手を押さえていた。

「やめてください!」

「いいんですか?」

男が晶子の耳元で低くささやくように言った。

(続)




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